高齢者の運動効果について
加齢とともに身体機能が低下することは、誰にでも起こりうる現象です。
生きている限り、この運命から逃れることはできません。
しかし、日々の心がけで、ある程度の予防ができることもまた確かです。
そのために、高齢であっても適度な運動を行うことが奨励されます。
そうした運動の効果を上げるためには、なぜ身体機能の低下を予防しなければならないのか、その理由を当事者(高齢者)と介護者がともに正しく理解していることが大切です。
なぜ運動しなければならないのか?
超高齢社会に突入した日本では、「高齢者の介護」が喫緊の課題となっていますが、そもそもなぜ「要介護」状態になるのか、ご存知ですか?
運動機能の障害は「死」に直結するような事態ではありません。
しかし、「痛み」により動けなくなると、それが次第に筋力の低下を招きます。
体が思うように動かなくなれば、生活に対する意欲も減退し、外出などはもちろんのこと、基本的な日常生活動作(ADL)の低下をもたらします。
つまり、筋力の低下→意欲減退→ADLの低下→筋力の低下......というような負のスパイラルに陥り、結果、「要介護」の状態へと進行していくケースは少なくないのです。
身体機能の低下がもたらす「生活の質」の低下
身体機能の低下そのものは、加齢に伴う当然の現象ですから、ある意味仕方のないことです。
しかし、それによって「生活の質」が低下する可能性があるということは、やはり無視できません。これこそが、介護におけるもっとも深刻な問題のひとつであるといえます。
例えば、何らかの身体機能の低下が原因で、室内にこもりがちになると、外界からの刺激を受けることがなくなるため、筋力の低下だけではなく、認知障害なども生じるようになります。
それが排泄や食事などといったADLにも影響を与えるのはもちろんのこと、友達とおしゃべりがしたい、おいしいものが食べたい、などといった生活に対する「意欲」の減退にもつながっていきます。
つまり、健康的な生活のみならず、人間らしい「文化的な」生活から、次第に遠のいてく危険性をはらんでいるのです。
「やればいい」というものではない
「文化的な生活」を送るということは、人間の尊厳を維持しつつ暮らすということです。
これは、当然の権利ですが、当事者や介護者の努力も必要とされることはいうまでもありません。そのためにも、適度な運動を心がけ筋力や身体機能をできるだけ維持するようにしたいものです。
とはいうものの、やみくもにただトレーニングをすればいいというものではありません。
健康状態や運動に対する意欲、身体能力などは人それぞれです。
その人に合った運動でなければ、継続することは難しく、「健康な暮らしを送りたい」という意欲もわきにくくなります。ですから、それぞれのケースに合わせたプログラムで運動を行うことが大切です。
例えば、厚生労働省は、「高齢者が日常生活において歩行運動を積極的に行なうことは、日常生活動作障害に対する初期予防活動として有効である」と述べ、一日の歩行数男性6700歩、女性5900歩という目標を掲げています(厚生労働省「健康日本21」より)。
このように「歩くこと」は大変効果的ですが、転倒や迷子、交通事故などのリスクもあります。
一人でも大丈夫なのか、周辺環境は安全か、どのくらいのレベルから始めればよいか、といった、当事者だけではなく介護者の都合も考えて無理のないプランで、運動するようにしましょう。
何より、少しずつ軽い運動を「習慣化」することが大切です。継続は力なり、ということを心がけましょう。
意欲があれば、運動効果も高まる
「運動しないと、寝たきりになりますよ!」といった言葉をかけていませんか?
子どもに、「勉強しないと合格しませんよ」と言ってもそう簡単には勉強をしないのと同様に、悪い事態になるぞと脅迫したところで「やる気」は起きません。
精一杯の努力をしている人に、ガンバレ、ガンバレと励ましすぎるのも考えものです。
過度の励ましや、しなければならない、しなさい、と追いつめてしまうことはむしろ逆効果です。
介護者は、本人にとってどのような効果(良いこと)があるのか、それを認識させる工夫をしましょう。
例えば、お孫さんの運動会を見に行きましょうとか、新しいお店にランチに行きませんか、などといった「生きがい」や「楽しい目標」を提案し、それに向けて努力している姿を褒めるようにしてください。
後期高齢者や虚弱な人でも、できる範囲での運動を続けることにより、健康を取り戻し、自立した生活が送れるようになることは、医学的な研究で証明されています。
「できない」ではなく、部分的にでも「できること」を取り戻すようにすることが生活の質を維持するうえで、最も大切であることを理解しましょう。できる範囲で無理のない運動を継続し、その効果を高めていきましょう。